策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 「木谷。今週末、暇?」
 「えっ?」

 10月4日水曜日、午後18時23分。

 たまたま一人でいた社長秘書室で、末席のわたしのデスクに片手をつき、もう一方の手を腰に当てて、まるで街角でナンパするような口調で話しかけてきたのは、れっきとしたわたしの上司、和久井繊維株式会社東京支社長、和久井達基(たつき)だ。

 そして突然、声をかけられてびびっているわたしは、木谷有希乃(ゆきの)27歳。

 身長は158㎝。体重はそれなり。髪型はミディアムボブ。地毛が茶色っぽいのでカラーはしていない。
 アラサーに足を踏み入れて2年目。年相応の大人の女性に見られたいと思っているけれど、いかんせん目も顔も丸くて、子供っぽく見られてしまうのがコンプレックスといえばコンプレックスだ。

 そして、この4月に総務部から社長秘書室に配転になったばかりの、まだまだ新米の秘書である。

 履歴書に箔をつけるために、大学在学中に秘書検準1級は取得していたけれど、実地での経験は皆無。
 結婚退職をする前任者から2週間ほど引継ぎを受けたけれど、初めのうちはミスばかりで、今、横に立っているボスに迷惑をかけまくってきた。

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