策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 でも、ここでほだされてはいけない。

 〈好きになってはいけないリスト〉筆頭の支社長と一緒に週末を過ごすなんて、とてもじゃないが受け入れ難い話だ。

 わたしはきっぱり断った。
 「申し訳ないですけれどお断りします。どなたか他の方にお願いしてください」

 「ダメ?」
 「はい」
 「どうしても?」
 「はい」とわたしは大きく頷く。

 そっかぁ、と支社長は、なんとなく嫌な感じに語尾を伸ばして、ポケットからスマホを取り出し、何やら操作をはじめた。

 「これって、木谷だよな」

 差し出されたスマホの画面に映っていたのは、わたしの動画。
 唯一の特技であるピアノ演奏をアップしているものだった。

 好きな曲を思う存分弾いているだけなのだけれど、ありがたいことにフォロワーが増えてゆき、今では公式のお墨付きをいただいている。

 今、流れている動画は、高校のときからの親友で、編集担当の小松玖美と浜松を旅行したとき、駅前の地下通路にあったストリートピアノを弾いて、ビデオに収めたもの。

 浜松は楽器の街と言われるだけあって、このピアノもきちんと調律されていて、すばらしい音色だった。
 
 でも、なんでわかったんだろう。
 ほぼ手のアップしか写してないし、声も出してないんだけど。
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