策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 そして、その週の土曜日、午前8時半。

 心配と緊張で一睡もできないうちに起床時間になり、ぼんやりした頭のまま支度をして出かけ、東京駅に到着した。

 かなり、もとい、とーっても強引な支社長と二人きりの旅行。
 しかも、彼のご両親の前で恋人を演じるなんて……

 前途多難すぎて、確実に胃に穴が開く案件だ。

 でも、いくらプライベートとはいえ、支社長がわたしのボスであるというのは動かぬ事実なので、秘書としての務めは果たさなければならない。

 なので、約束時間よりも早めに東京駅に行き、事前に聞いておいた、支社長お気に入りの焼き鳥弁当とビール、それと手土産を購入した。

 まあ、今回は性悪な支社長にまんまとハメられた結果、ここにこうしているのだから、そんな気遣いはいらないのかもしれないけれど。
 これもわたしの性分だから仕方がない。

 待ち合わせ場所に向かう途中、地下街の店の窓ガラスに映ったいつもと違う自分に小さくため息をつく。
 
 わたしが今、着ている服は、あの時、支社長に買ってもらったもの。

上品だけれどフォーマルすぎない紺色のワンピースとベージュのジャケット。
普段の自分には、到底手が出ない高級ブランドの品だ。

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