策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 あの後、支社長が車で乗りつけたのは、御用達のデパート。そして数着の洋服にとどまらず、靴やバッグ、果ては化粧品一式まで、言われるがまま試着や試用を繰り返すことになった。

 外商サロンの応接室に積み上げられた包みを見て、わたしは小声で確認した。

 「あの……本当にいいんですか。多すぎませんか、いくらなんでも」
 「くどい。こんな所でじたばたして、俺に恥をかかせる気か?」
 横目で軽くにらまれ、それ以上何も言えなくなってしまったけれど。
 
 これでもう、やっぱり週末の約束はなかったことにしてください、とは、とても言えなくなった。
 山積みのプレゼントに見合うだけのことをしろという、無言のプレッシャーをひしひしと感じる。

 はあぁ、気が重い、と出るのはため息ばかり。

 帰りの車のなかで眉を顰めているわたしを、支社長はミラーごしに見て、不思議そうな声で言った。

 「なんでそんな顔してるんだ。普通、喜ぶだろう。プレゼントされれば」
 「そんな……無邪気に喜べないですよ。こんな分不相応な贈り物」
 
 そう答えると、ミラーの中で支社長が嬉しそうな顔をする。

 「だからだよ」
 「何がですか?」
 「木谷なら、図々しくつけ上がったりしないってわかってた。だからこそ、白羽の矢を立てたんだけどね」

 妙なところを見込まれてしまったものだと、わたしはまた、小さくため息をついた。
 

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