策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 「あのさ、もう忘れてる? 俺たちはどういう関係?」
 「えっ? 昨日も今日も明日も、上司と秘書。それ以上でもそれ以下でもないと思いますが」

 わたしの言葉に、彼は肩をすくめる。

 「違うだろ。今日の俺たちは恋人同士。彼氏が窓側、陣取るなんて、傍から見たらおかしいでしょうが」

 「あのー、でも、それはあくまでフリですから、やっぱり支社長、そちらにお座りください」

 「いいから、早く座れって。天気いいし、富士山がよく見えるぞ、きっと」
 そう、にっこり微笑まれてしまうと黙るしかない。

 「わかりました。では」
 そう言って、遠慮がちに窓側の座席に座った。

 続いて支社長がどんと隣に腰を下ろす。

 普通車よりは座席が広くて余裕はあるけれど、狭い空間に支社長とふたりきりというのは、なんとも落ち着かない。
 
 普段、支社長の出張に付き添うのは小野秘書室長なので、こうして列車に並んで座ること自体、初めてだ。

 「予定だが、着いたら、まず実家、そして明日、伯父のところに出向く。母親に『夕食を一緒に』と言われたけど、断っておいたよ。今回は挨拶だけにしてくれって。お、そうだ」と支社長がわたしの顔を覗き込む。

 「この二日間、支社長は禁句な」
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