策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 転属当初は厳しい表情の支社長に「おい、木谷」と呼ばれるだけでお腹が痛くなってきたほど。最近、ようやく秘書の仕事に慣れてきたところだ。

 わたしの特徴を一言でいえば「真面目」に尽きる。

 学生時代、どんなにつまらない授業の時も、スマホで暇つぶしをしたり、眠ってしまったりせず、きっちりノートを取って、友人に見せてあげる係だったし。
 仕事をはじめてからも、無遅刻無欠勤は当たり前。資料作成なども期日に遅れたことはない。

 ああ、でも秘書になった当初は、会社に行きたくなくてなかなか布団から出られずに、もう休んじゃおうかと思った日もあった。
 でも、なんとか自分に鞭を打って出社し、今も無欠勤記録は更新中だ。

 「急ぎで作成しなければならない資料があるということですね。どちらの案件でしょうか? 例の渋谷の旗艦店出店に向けた提案書の清書でしょうか?」

 そう答えたわたしに、支社長は小さく首を振る。

 「いや、勤務じゃなくプライベートの頼みだ。この土日、一緒に本社に行ってほしいんだけど」

 「本社に、ですか???」
 わたしは丸い目をさらに丸くして支社長を見る。

 「頼むよ」
 と、凝視するわたしはものともせず、彼は手を合わせて拝んでくる。

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