策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 はっとして、窓に目をやる。
 支社長が言った通り、今日の富士山は、今まで見た中でベストと言えるほど、美しかった。

 雲ひとつない青空を背景に、山頂から山裾までくっきりと見えている。

 「わー、すごい! なんだかラッキーな気がします。こんなに綺麗な富士山が見られると」とつい興奮してしまった。

 そんなわたしに支社長はふっと笑みをこぼした。
 「今日、初めてだな。有希乃がそんないい笑顔したのは」と。

 30回に1回ほど見せてくれる彼の柔らかな表情に、また凝りもせず、胸がキュンと疼く。
 そのまま目を逸らさないで、わたしを見ている支社長の態度に困惑して、わたしはごまかすように、もう一度窓の外に目を向けた。

 岐阜をすぎたあたりでお弁当を食べた。
 お腹が満たされると次にやってくるのは、必然的に眠気だ。
 寝てはいけないと思いつつ、昨晩の寝不足がたたって、どうにも目が開けていられない。

 「我慢しないで寝てもいいぞ」と横から言われ「すみません」と言いながら、次の瞬間には、もう意識がぼやけはじめていた。
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