策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 気づいたときは目的の駅到着の10分前。

 「よく寝ていたな」と意外なほど近くで声がした。

 横を見ると間近に支社長の顔。
 「わっ」と、わたしは姿勢を正した。目も一気に覚めた。

 あろうことか、わたしは彼の腕を枕にして寝ていたのだ。
 アームレストを挟んでいるとはいえ、なんたる失態。

 「あ、す、すみませんでした」と深々と頭を下げると、その上から声が降ってくる。

 「うまいもんを食う夢でも見てたのか」
 「えっ?」
 「いや、あまりにも幸せそうな寝顔してたからさ」

 正解だ。
 大好きなスイーツを食べる夢を見ていた。
 でも、なんでそんなことまでわかっちゃうんだろう。

 はっとして、わたしは口元に手をやる。
 慌てるわたしを見て、支社長はくっくっと小刻みに身体を震わせた。

 「大丈夫、よだれ垂らしてたわけじゃないから」

 あー、もう、お願いだから、いちいちわたしの気持ちを言語化しないで!
< 21 / 59 >

この作品をシェア

pagetop