策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 「そう? 俺によりかかって寝てたのに。有希乃はなかなか肝が据わってる、と感心していたんだけど」

 「いえ、そ、それは……昨晩、今日のことが心配で、よく寝られなかったからで」
 「ああ、それは悪いことをした。後でたんまりご褒美をやらなきゃいけないな」

 また慌てて首を振った。これ以上、恩を売られても返すあてがない。

 「いえ、もう、そんな気遣いは、本当にいりませんので。この間買っていただいた分でも、充分過ぎたんですから」
 「そんな遠慮するなって」

 そうやって、また、わちゃわちゃと言いあっているうちに、本社に隣接している支社長のご実家に到着した。

 想像通りの大邸宅だ。
 瓦葺きの二階建てで、よく手入れされた広大な庭つきの豪壮な日本家屋。
 こんなに立派な門構えの家、いまどき珍しい。
 由緒ある老舗旅館のような佇まいだ。

 まずい、手汗までかきはじめた。

 「実に……立派なお宅ですね」
 「そうかな。それほどでもないと思うけど」

 呼び鈴を押し、支社長が名乗ると「はい、ただいま」と声がして、門が開錠された。

 「どうぞ、入って」
 「はい、おじゃまします」

 
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