策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 「ああ、きわめて順調だよ。業績は見てくれているんだろう」
 「まあな。だが調子に乗りすぎるなよ。うまく行っているときに限って足許を掬われる。世の中とはそういうものだ」
 「わかった。肝に銘じるよ」
 
 その時ノックの音がして、続いて、女性の、とても明るいトーンの声が響いてきた。

 「ごめんなさいね。遅くなってしまって」と、支社長のお母さまが入ってきた。

 場の空気が一気に華やかになる。
 とても美しい方だ。支社長の美貌はお母さま譲りなのだと、納得する。

 「えーと、お名前。何とおっしゃるのでしたっけ。達基には聞いていたのだけれど」

 「木谷有希乃さんだよ」

 「あ、そうそう。有希乃さんね。素敵なお名前だと思ったのよ。ダメね、すぐ忘れちゃって。年は取りたくないわ。記憶力だけじゃなくて目も衰えてきてるし……」

 「母さんはまだまだ若いよ。心配しなくても大丈夫」
 「まあ、達基だけよ、そんな嬉しいこと、言ってくれるのは」

 お母さまはわたしの向かいに座った。
 にこやかに笑みを浮かべていらっしゃる表情はとても和やかだ。

 でも、なんといっても、ひとり息子の恋人との初対面である。
 果たしてこの子は、大切な息子にふさわしいのかと、品定めされていそうな気もする。

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