策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 「実はわたしね、ピアニストになりたかったの。でも練習嫌いだったから、ぜんぜん上達しなかったけれど。今でもときどき弾くのよ。それで達基に期待をかけて、中学に上がるまではレッスンに通わせていたの」

 え、支社長がレッスン?
 「し、あ、達基さんがピアノを習っていたなんて、初めて聞きました」

 「あら、話してないのね。結構、上手だったのよ。親が言うのもなんだけど。でも中学生になって、部活や勉強が忙しいと言って、やめてしまったときは本当に残念だったわ。わたしは音大に進んで欲しかったのだけど」

「母さんが勝手にそう思ってただけだろう?」

 支社長とピアノ。
 ああ、それでわたしの動画に気づいたのかもしれない。

 それにしても。
 ピアノの弾けるイケメンなんて、最強すぎる。

 もう、この人にこれ以上のモテ要素は必要ないと思うのだけど。


 それから、わたしたちは、しばらく音楽談義で盛り上がった。

 お母さまは正真正銘のクラシック・ファンで、明治に建てられた会社の旧館で演奏会を開いたり、地元ホールの支援も熱心にされているそうだ。

 「有希乃さんはどんな曲がお好きなの?」

 「好きな作曲家はドビュッシーやラベルです。弾くのも聴くのも好きです」

 「まあ、19世紀や20世紀のフランスの楽曲がお好きなのね。私もあの時代の音楽はとても好き。でも、一番好んで聴くのはロマン派かしらね。ショパンやリストのピアノ曲には痺れるし、あとシューマンの交響曲も好きだわ。聴いていると、とても気持ちが明るくなるから」
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