策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 いや、でも本社って。
 どうしても困惑を隠せない。

 なぜなら、和久井繊維の本社は東京から新幹線で3時間余りの、中国地方の小都市にあるのだから。土日ということは……当然、泊まりがけになる。

 和久井繊維の前身は江戸時代に開業した繊維問屋で、明治になってから海外との貿易で業績を上げ、その後、繊維会社として中堅の位置を占めるにいたった。

 で、この支社長。
 本社社長の一人息子で御年31歳。
 ただ、この若さにして支社長というのは、決して親の七光りではない。

 本社で専務をしていた6年前。新事業として、自社素材を用いたオリジナルブランド「WAKU∞」を立ち上げ、上質かつ低価格の商品ラインナップで大ヒットさせ、地方の一企業でしかなかったこの会社を全国的企業に押し上げた立役者で、その功績を受けて、5年前の支店開業とともに支社長に就任した。

 その後も「WAKU∞」の海外出店を実現したり、紡績会社とタッグを組んで、洗濯機で洗えるシルク糸を開発してまたまたヒットを飛ばしたりと、支社長の快進撃は続いている。

 で、蛇足だけれど。
 支社長、仕事ができるだけでなく、容姿も抜群にいい。
 なので、当然のごとく、モテる。

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