策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 そんな人の口車に乗って、深く考えずに、ご両親を騙す手伝いをしてしまった自分にも腹が立つ。

 しかもウキウキと心を弾ませていた。
 支社長と一緒に過ごすのは、なんだかとても楽しいと思ってもいた。

 でも今は、気持ちは沈んでゆく一方。
 もう、楽しさのかけらも残ってはいない。


 「さて、俺たち、そろそろ行くよ。彼女はこの街に来るのははじめてだから、案内したいところがたくさんあるんだ。見合いの件は、明日、二人で伯父さんのところに行って、正式に断ってくる」

「ああ、そうしなさい。それから有希乃さんとの結婚だが、せめて結納の段取りは早くつけなさい。ご両親との顔合わせも考えなければならんし……」

 支社長は苦笑いしながら、父親の言葉を制した。
「父さん、仕事じゃないんだから、そう急かすなって。また連絡するから」

 それからすぐ、わたしたちはご両親宅を辞した。

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