策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 門の外に出たとたん、膝の力が抜けて、(くずお)れてしまいそうなほどの疲れが襲ってきた。
 
 「疲れた?」とわたしの様子を見て、支社長が聞いてくる。

 普段のわたしなら気遣って「いえ、大丈夫です」と言っていたと思う。
 でも、今は本心を取り繕う元気はなかった。

 「はい。もう、いつ倒れてもおかしくないほど、疲労困憊(こんぱい)しました」

 わたしの言葉に、支社長は苦笑する。

 「しかし、想像以上に良くやってくれたね。親父も母さんもすっかり気に入ってくれたじゃないか、有希乃のこと」

 その言葉にかちんときた。
 自分が何を言っているか、ちゃんと理解しているのだろうか、この人は。

 いや、でもわたしがお二人に気に入られたら困るんじゃないですか、これから、どうするつもりなんですか、こんな嘘、ずっと突き通せる訳ないのに、と支社長に詰め寄ろうとしたその時、運転手の酒井さんがこちらに近づいてきた。

 「達基さん、セントラルホテルでよろしいんですよね」

 「ああ、お願いします」

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