策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 わたしは口先まで出かかっていた言葉をぐっと飲みこんだ。

 お父さまの運転手である酒井さんの前で、支社長のもくろみをばらす訳にはいかない。
 きっと大事(おおごと)になって、支社長を困らせてしまうだろうから……

 そう思って、わたしはハッとした。

 どうして、彼に腹を立てている、今みたいなときまで、この人の利害を第一に考えてしまうんだろう、わたしは。
 ご両親にバレた方が、結果としてはいいはずなのに。

 でも結局、言いだせなかった。
 
 解消できないモヤモヤを体中に充満させたまま、わたしは車に乗り込んだ。
 
 
 不機嫌を隠しきれずに仏頂面をしているわたしに気づいていないのか、それともわざとスルーしているのか、支社長の口調はいつもとまったく変わらない。

 「母親に、家に泊まっていけばいいって言われたけど。さすがに有希乃にそこまで気を使わせる訳にはいかないだろう?」

 わたしは彼の方を見ないまま「お気遣いありがとうございます」と答え、それから言った。

 「すこし目をつぶっていてもいいですか。頭が割れそうに痛いので」

 「ああ、もちろん。なんなら、さっきみたいに寄りかかってもいいぞ」と、支社長は自分の腕を叩く。

 「いえ、結構です」

 冷たくそう言い放つと、わたしは腕を組んで目を閉じ、支社長との会話を強制終了した。
 
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