策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 宿泊先は、戦前に建てられた印刷工場をリノベーションした、赤レンガが印象的なクラシカルなホテルだった。

 フロントでチェックインを済ませた支社長が戻ってきて、今どき珍しい、カード式ではない金属のキーを渡してくれた。

 「有希乃の部屋は3階。俺は5階の501。朝食は8時からにしたよ」
 「はい」と一言だけ答えると、わたしは先にエレベーターに向かった。

 エレベーターの中で、支社長は心配そうにわたしの顔を覗き込んできた。

 「大丈夫か。まだ具合が悪いなら、今から診てくれる医者を探すが」

 わたしは軽く首を振った。

 「いえ。ちょっと疲れすぎただけです。ご心配をおかけして申し訳ありません」

 「いや、俺のせいで疲れさせたんだから謝る必要はないよ。部屋で少し休んだらいい。1時間ほどしたら連絡するから。治っていたら晩飯、食いに行こう」

 「わかりました」
 そう言っているうちに、エレベーターは3階に着いた。

 床には赤い絨毯が敷かれていて、エレベーターホールに置かれた調度や壁紙なども英国調でまとめられている。
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