策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 でも、そうではなかった。

 自分が支社長の本物の恋人ではないこと。
 そして、ご両親が喜んで認めてくれたわたしたちの結婚は、実は永久に実現しないこと。

 その事実が耐えられないほど、悲しかったのだ。

 

 偽恋人を演じたことで、はっきり自覚した。
 わたしはもう、支社長に完全に心を持っていかれている。

 いくらガードしても、無駄だった。
 もうどうしようもないほど、彼を好きになってしまった。

 だから、もう無理。
 こんな茶番、切なすぎて、心が持たない。
 
 帰り支度をしてからスマホを取り出し、支社長に「誠に申し訳ありませんが、東京に帰ります」とメッセージを送った。

 会ったらきっと、言葉巧みに引き留められる。

 それを振り切れる自信が、わたしにはなかった。
 
< 36 / 59 >

この作品をシェア

pagetop