策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
「確かに、わたしには関係のないことだ、とおっしゃられたらそれまでですけど、でも、巻き込まれた身としては、一言、言わせてもらいたくて……」

「そういう意味じゃない」と言葉を遮られた。

 そして、彼はわたしをまっすぐ見つめたまま、言った。

「俺、親の前で、ひとつも嘘はついてない」
「えっ? どういうことですか」

 彼はすこしだけ、表情を緩め、それから姿勢を正した。

「うーん、ちょっと計画が狂ったけど、まあ、いいか」
「計画って?」

 それには答えず、彼は先を続けた。

「逆だったんだ。親に言ったことが、俺の本心。『口説き落とした』とか『真剣に交際している』とかは、単なる希望だけど。で、有希乃に言ったことの方が嘘。最初から口説くつもりでここまで連れてきた。そのぐらいしないと、ガードの固い有希乃を恋人にすることは不可能だと思ったんだよ。東京じゃ、いくら誘っても乗ってこないしさ」

 そんなことを言いながら、今度はちょっと恨みがましい目をされる。

 いや、でも誘われた覚えなんてないけど。

「え、でも、い、いつ、誘われましたっけ」

「取引先に行った帰りや残業の後とか、食事に誘っただろう。でも、二人きりだと、一度もOKしてくれなかったぞ」




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