策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 「で、でも、そんなこと……」
 「あり得ない、って言いたい? でも、ちょっと考えてみてよ。まったく気のない女に、服やら靴やら買ってやったり、ふたりきりで旅行したいって思うか、普通?」

 「えーと……それは」

 支社長はさらにトーンを落として、ずんと身体の奥に響くような低くて甘い声で囁いてきた。
 「だから、東京になんて帰せない。まだちゃんと口説いてもいないのに」

 そ、そんなこと。

 わたしは、彼から惜しみなく注がれる甘い眼差しを振り切るように顔を振った。

 「い、いえ、やっぱり信じられない。支社長、絶対ふざけてますよね、わたしの反応が面白いからって」

 わたしの言葉に、彼はゆっくり首を横に振った。

 「ふざけてなんかいない。天地神明にかけて」
 「その言い方からして、もう完全にふざけてますって」

 「じゃあ、ちゃんと言うよ。俺は有希乃が可愛くてたまらない。好きだ。心の底から」

 さらに熱量の増した眼差しをじっと注ぎながら、彼は続けた。

 「両親に今回の見合いの話を持ちだされたとき、思ったんだよ。自分でも、そろそろ結婚する時期だと思っていたのに、どうしてこんなに見合いが嫌なのかって。そして、俺が一緒にいたいのは有希乃なんだって、はっきりと悟った。だから一計を案じたんだ。どうしても有希乃を自分のものにしたくて」

 そんなことを言われるなんて、想定外すぎて、頭がパンクしそうだ。
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