策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 わたしはグラスを手にとるとストローを引き抜き、直接口をつけて、アイスティーをごくごく飲んだ。
 そしてちょっとむせながら、早口で言った。

 「すみません、ちょっと今、頭が混乱してます。だって支社長がわたしを好きだなんて、本当に、これっぽっちも思ったこと、ありませんでしたから」

 目を逸らそうとするわたしに、支社長は少し眉を寄せて、切なげな表情を浮かべた。

 「他に好きな人がいるというなら遠慮せずに言ってくれ。それなら、きっぱり諦めるから。心配しなくても、振られたからといって仕事でつらく当たったりしない。それは信じてくれ」

 そんな人じゃないことは、知ってるけど。

 「いえ、他に好きな人なんていません。でも……」

 「じゃあ、何が問題なんだ? お互い独身だし、付き合っている人もいない。なんの問題もないじゃないか」

 わたしは上を向いて、少し考えてから口を開いた。

 「えーと、支社長が素敵すぎるから、ダメなんです」

 わたしの言葉に、彼は首を傾げる。
 「それ、断る理由にはならないと思うけど」

 なんとかわかってもらおうと、わたしは必死で続けた。

 「大学生のとき、少しの間だけ、付き合った人がいたんですけど、その人も支社長によく似た、とってもカッコいい人で。でもすぐ『やっぱり有希乃のこと、好きじゃなかった』って振られてしまったんです」

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