策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 「それで?」と支社長は先を促した。


 「そのとき、気づいたんです。つくづく、わたしは女性としての魅力に欠けるんだな、と。取り柄は真面目なことだけで、面白いことは一つも言えないですし、男の人に甘えるのも苦手だし、それに休みの日も気づいたら3時間も4時間もピアノばっかり弾いてるし、本当に退屈な人間なんです、だから……支社長もすぐに後悔すると思うから」


 わたしの言葉が終わらないうちに、彼は口の端に笑みを浮かべ、そして言った。

 「そういうところを全部ひっくるめて好きなんだけどな。それに有希乃は俺にとって最高に面白い、というか楽しい人だ。有希乃といると心が弾む。長い時間、一緒に過ごしてみて、あらためてそう思ったよ」

 「支社長……」

 彼はわたしの顔を覗き込んで、とどめの一撃を放った。

 「とにかく、嫌いではないんだな。俺のこと」

 わたしはためらいがちに、でも、こくんと頷いてしまう。

 「はい。というか……」

 「というか?」
 わたしは目を泳がせて、またグラスを手にする。
 
 「こら、途中でやめるなよ。最後まで言ってくれ。上司として命令する」

 「もう……こんなときに職権乱用しないでください」

 飲みもせずにグラスを掴んでいるわたしの手を、彼は両手で包み込んだ。
 
 視線を上げると、彼の懇願するような眼差しにぶつかる。

 「有希乃……言ってよ。頼むから」

 そんな顔されたら……もう無理。
 やっぱり、わたし、この人が好きだ。

 観念したわたしはとても小さな声で答えた。
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