策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい

 その後、お互いの部屋に戻り、着替えてからロビーで待ち合わせた。

 「旧市街にあるイタリアンを予約してある。近くだから歩いていくけどいい?」
 「はい、もちろん。街の様子も見てみたいですし」

 ホテルからしばらく歩いて、川べりに出た。

 その川に沿って美術館や歴史的建造物が建ち並んでいる。
 ここは昼夜問わず、多くの観光客が訪れる人気スポットだ。

 「うわ、素敵。ガイドブックで見た写真のとおりですね」
 「インバウンド効果かな、昔より店も増えて、観光客も増えたよ」

 
 そんな話をしながら、彼はさりげなく手を伸ばして、わたしの右手を握ってきた。

 「あっ」
 「手を繋いで歩くのは嫌?」
 「いえ、大丈夫……ですけど」
 
 支社長はさらに指と指を交差させて、いわゆる〈恋人つなぎ〉をして、雑踏に足を踏み入れた。
 
 つないだ手のぬくもりは嬉しいけれど、恥ずかしくもあって。

 アラサーが何を言っているんだ、と思うけど。
 でも、わたしにとってははじめてのことなので、ドキドキしても仕方がないかな、とも思う。
 
 「嬉しいよ。こうして手をつないで歩くのを夢だったから」
 
 さすがにそれはリップサービスだろう、と思いながらも、返事の代わりに彼の手をそっと握りかえした。
 

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