策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 彼が連れていってくれた店は、路地の奥にある町家を利用したイタリア料理店だった。

 「和久井です」と告げると、奥の窓際の席に案内された。
 ライトアップされた中庭がとてもいい雰囲気だ。

 「おしゃれなお店ですね」
 「いいだろう。実はね、ここで告白する計画だったんだよ」
 「さっきの計画って、そのことなんですね」
 「ああ、それだけじゃないけど」

 支社長は内ポケットから小さな包みをとり出した。

 「プレゼント。開けてごらん」
 「えっ、またですか? この間、あんなにたくさんいただいたのに」
 「いいから」

 促されるまま、薄紫色のケースのふたを開けた。
 中に入っていたのは、薄葉紙に包まれた、わたしの葡萄の指輪に合わせたデザインのネックレスだった。

 「これって……」
 「その指輪、有希乃の宝物なんだろう。だから一緒につけてもらえるものがいいだろうと思って、知り合いのデザイナーに作ってもらった。これを渡して、告白っていう流れだったんだけどな、計画では」

 「支社長……」

 「あのさ」と彼は額に手をやって、ちょっと呆れた声を出した。

 「さすがにここは『達基さん』って言うところじゃないかなぁ?」
 「あ、ごめんなさい」
 「次に『支社長』って言ったら、罰ゲームってことにしようか」
 「なんですか? その罰ゲームって」
 「秘密」

 そう言って、支社長改め、達基さんは瞳をあやしく輝かせる。

 罰ゲームっていう響きがちょっとおそろしいけど、今は考えないことにしよう。
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