策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 「つけてあげるよ」
 彼は立ち上がり、わたしの背後に回ると、ネックレスを首にかけた。
 留め金をとめるとき、彼の指がうなじに触れ、わたしは少しだけ身を震わした。

 「くすぐったがりなんだな、有希乃は」
 「はい。首筋は特に」
 「いいこと、聞いた」
 「えっ?」
 「いや、こっちのこと」

 彼は席に着き、わたしの首元を飾っているネックレスを見て、目を細めた。

 「良かった。よく似合ってる。有希乃は首がほっそりしてるから、ネックレスがよく映えるね」

 「ありがとう……達、基さん、嬉しいです」
 たどたどしく名前を呼ぶと、彼は嬉しそうに口角を上げた。

 「いいな、その初々しい感じ」
 「もうまた。そうやって、からかわないでください」

 グラスワインが来て、乾杯をし、それから達基さんは言った。
 「ここのシェフ、若い頃、ヴェネツィアとローマに修行に行っていたんだ。本格的なイタリア料理を食べさせてくれるよ」

 どういうものが本格的なのか、わたしはよく知らなかったけれど、前菜からデザートまで、どのお料理も本当に美味しかった。
 しかも、甘いものが苦手だという彼のティラミスももらって、大満足のうちに食事を終えた。

 「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」
 
 「ホテルに戻る前に、少し歩かないか?」
 彼はそう言って、来たときのようにわたしの右手を取った。

 「そうですね。お腹いっぱいだし、少し歩いた方がいいかも」とつないでいない方の手でお腹をさすると、彼は楽しそうに声を立てて笑う。

 
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