策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 「胸いっぱいで食べられないとか言いながら、人のデザート、奪ったぐらいだもんな」

 わたしはふくれっ面で言い返した。
 「奪ったんじゃなくて、支社長が『甘いの苦手だから食べてくれ』って言ったんじゃないですか」

 「お、また支社長って言った。本当に罰ゲーム考えなきゃな」
 「なんだ『秘密』とか言って、考えてなかったんですね、さっきは」

 行き道のときは、まだ告白の余韻が残っていて、お互い少し緊張気味だったけれど、ワインも入って今はすっかり元通り。
 口を開けば、わたしをからかってくる。

 でも、その方がいい。
 この人とわちゃわちゃ言い合っているのは、本当に楽しい。

 わたしたちは手をつないで、川沿いをゆっくり散歩した。

 古民家や洋館などがライトアップされ、それが川面に映って、本当に美しい。
 ガス燈を模した街灯もレトロな雰囲気を盛り立てている。
 ずっと眺めていたいと思うほど、素敵な光景だった。

 でも、夜の川べりの風は冷たく、わたしは少し、身を震わせた。
 昼間は汗ばむほど暖かかったけれど、夜はさすがに冷える。

 「寒い? そろそろホテルに戻るか?」
 「そうですね」

 じゃあ、こっちが近道だから、と達基さんは、表通りから一本奥の細い道に入っていった。

 黒い板塀が囲っている、料理旅館だという大きな建物の脇の小道。
 なんとか二人で並んで歩けるほどの狭さだ。
 そして、ずいぶん暗い。

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