策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい

 彼を推している人たちの気持ちは、わたしだって、よくわかる。

 見た目に限って言えば、断然、好みのタイプ。
 だから、今みたいな至近距離で真横に立たれると、やっぱりドキドキしてしまう。

 でも、仕事は別として、個人的には、わたしは彼が苦手。というか天敵に近い。

 ミスで叱られた時の恐怖がトラウマになってることもある(もちろん、それはミスしたわたしが悪いのだけど)。

 でも、一番の理由は学生時代、ほんの一時(いっとき)だけ付き合った人に支社長がとてもよく似ていることだ。
 もしかして血がつながっているんじゃないかと思ってしまうほど、二人は表情や態度がそっくりなのだ。

 大学祭実行委員長だったその彼も、とっても見た目が良くて、頭の切れる人だった。
 わたしは副委員長で、初打ち合わせのときからすでに彼を好きになっていた。
 つまり、完全な一目ぼれ。そして初恋だった。

 学祭最終日の打ち上げ後、大イベントを一緒にやり遂げたという興奮状態のなか、彼に「付き合わないか」と告白されたときには、もう天にも登る心地だった。

 でも、彼の熱が冷めるのは、ジェット機並みに早かった。
 3回目の、まるで盛り上がらなかったデートの後、あっさり告げられた。

 「悪いけど、俺の、有希乃への気持ちは恋じゃなかったみたいだ」と。



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