策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 彼はわたしの額にかかる髪をそっと掻き上げ、そこにキスを落として言った。

 「ちょっと深いキスしただけで、あんなにうろたえるんだから、そのぐらいわかる」

 わたしはさらに顔を真っ赤にしてしまう。

 「でもそれがわかって、最高に嬉しかった。つまり、最初の彼とはなんにもなかったってことだろう」
 と、彼は口の端を持ち上げる。

 それはそうなんだけど、素直に頷くのも癪なので、ちょっとはぐらかしてみる。
 「うーん、それは秘密です」

 「お、思わせぶりだな。生意気だぞ。有希乃のくせに」
 「もう、支社長、わたし、のび太じゃないんですから」

 彼はわたしの唇を指で塞ぐ。
 「また支社長って言ったな」

 それから、腕を伸ばして、わたしを引き寄せた。

 「忘れた? 俺の名前」
 「忘れるわけないですけど、面と向かって言うのは……まだ、ちょっと、恥ずかしくて」

 「なんでそんなに可愛いこと言うんだ……有希乃は」
 「キャっ」

  気づくと、いつのまにか、組み敷かれていた。

 わ、わ、わ。

 「もう目を覚ましたことだし、遠慮することもないか……愛し合う? 今から」
 「あ、えっと、その……」

 彼は答えを待たずに唇を重ねてきた。
 昨日よりもさらに濃厚に。

 「あん、ふゎっ」
 鼻から息が抜けて、情けない声が出てしまうほど。

 それから彼の唇が頬をすべり、首筋を捉えた。
 その、耐えがたいくすぐったさに、わたしは身をよじる。
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