策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 「だ、だめです。首は……くすぐったいから」

 わたしの言葉に、彼はくっと喉を鳴らす。

 「昨日も言ってたね。でも、それはね、有希乃。くすぐったいというより、感じてるってことだと思うけど」

 それから彼は半身を起こし、上からわたしの両腕を押さえつけた。
 じっと見つめられて、ものすごく恥ずかしいのに、手を取られているから隠すことができない。

 わたしはできる限り横を向き、言った。

 「やだ、そんなに見ないでください」

 「頬だけじゃなくて、首まで赤くなってる。綺麗だよ。どこまで俺を惑わせれば気が済むんだ、有希乃は」


 彼の、妖しく輝く美しい瞳を見あげながら、この後、いったいどうなってしまうのだろうかと気もそぞろになる。
 でも彼は、急に身体を起こし、それからわたしの手も引いて、起き上がらせた。

 「えっ?」
 「伯父に会うの、9時からなんだ。朝飯、食いにいかなきゃ」

 残念だった? と耳朶を食まれながら囁かれて、わたしはぷるぷると首を振る。

 「俺はものすごく残念。だから今夜、泊まってくれる? 東京の俺の家に」

 「でも、明日は仕事ですし……」
 
 彼は口角を上げる。
 「その心配はしなくていいんじゃないか。もし朝、起きられなかったら有給取ればいい。上司の許可はその場で取れるわけだし」

 
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