策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 そんなふざけたことを言いつつ、ぎゅっと抱きしめられたら、もう断れる訳がない。

 消え入りそうな声でわたしは「はい……」と答えた。

 彼は微笑んで、チュッと音を立ててキスしてから、ベッドを降りた。

 洗面所に向かう彼の背中を目で追いながら、わたしは思っていた。


 たぶん、もうずっと前から。
 支社長は、わたしが彼を好きだと気づいていたんだろう。

 そして、きっかけさえ与えれば、彼の手の内に堕ちてしまうことまで計算の上の〈計画〉だったんだ、今回のこの旅行は。

 本当に性悪な策士だ、この人は。

 でも、ちゃんと分かっている。

 (かたく)なすぎて、臆病すぎるわたしと思いを通じさせるには、そんな強引さが必要不可欠だったんだと。


 彼を愛しく思う気持ちが、これでもかというほど心の底から込み上げてくる。

 今すぐ、伝えなきゃ。

 もう、彼に気づいてもらうのを待つのではなく、自分でちゃんと、この気持ちを伝えたい。
 
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