策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 話をしながら、心がじわじわとあたたかくなってくる。

 そんなに前から、達基さんがわたしを好きでいてくれたなんて、思ってもみなかったから。

「でもどうして、今まで、その話をしなかったんですか?」

「あの頃は、それどころじゃなかったからね。有希乃はまだ仕事に慣れてなくて、ミスばかりしていただろう。それに仕事以外の話はご法度(はっと)って感じだからな、会社にいるときの有希乃は」

「そうですか? でも確かに、あの頃、本当によく叱られましたよね」

「ちょっと言い過ぎたかと後悔してたよ。あれで有希乃に敬遠されるようになったと思ってたから」

「いえ、ミスを叱責されるのは当然ですから。そんなこと、少しも思っていなかったです」

 そんな話をしながら、ふと窓に目を向けると、ちょうど新富士駅を過ぎるところだった。


「あ、支社長。富士山、見えますよ。今日もとっても綺麗」

 わたしが弾んだ声でそういうと、横から彼がわたしの唇に指を立てた。

「また、支社長って言ったな。今回はもう見逃してやれない。罰ゲームしないとね」

 そう言って、彼は唇を重ねてきた。

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