策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 わっ。
 いくら、座席の奥で見えにくいとはいえ、公衆の面前でキスするなんて。

 わたしは彼の肩を押して、その唇から逃れた。

「だめですって、こんなところでキスしたら」

 わたしが小声で抗議すると、彼は悪い笑みを浮かべる。
「仕方がないだろう。有希乃がいけないんだぞ、支社長って言うから」

 もう、と言って頬を膨らますと、わたしの言うことなんて、まったく聞く気のない彼は、両手で頬を包んでくる。
 
「そんな可愛い顔したら、逆効果」
「あん……」

 もう。
 そんな嬉しそうな顔で迫られたら、降参するしかないではないか。

 もう……本当に。
 大好きです、達基さん。

 そして……
 車掌さんが来たらどうするんですか、文句を言いながら、彼がくれる口づけの甘さに……酔いしれた。

(終)

 



 
 



 

 
 
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