策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 ショックだった。
 女子校出身ということもあり、男の子と付き合うこと自体、初めてだったし、すぐには立ち直れないほど落ち込んだ。

 いや、それどころか、それから今まで、ずっと彼氏ゼロ状態が続いている。
 苦い失恋の影響はとてつもなく大きく、7年も経ったのに、いまだに引きずっていて、もう、絶対、容姿だけで人を好きになったりしないと強く思っている。

 なので、わたしの中で、支社長は〈好きになってはいけない人リスト〉の筆頭に位置づけられている。
 もう、あんな思いは二度としたくないから。

 まあ、でも、そんな心配はするだけ無駄。支社長ほどのハイスペックスパダリが、わたしに興味を示すなんてありえない。
 ずっとそう思ってきたのだけれど。



 「あ、あの、いったいどういう訳で本社に行くのですか?」

 動揺するわたしを見て、ちょっと笑みを浮かべてから、支社長は口を開いた。

 「俺、来週の火曜日で32歳になるんだよ」
 「はい。それは存じております」
 
 いや、でも、それがどうしたのだろう。

 支社長の話がまったく見えず、わたしは首をひねった。
 誕生日と週末の用事に、なんの因果関係があるというのか。

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