策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 「えーと、支社長の誕生日をご実家まで行って祝え、ということではないですよね?」
 真面目な顔で問うわたしを見て、支社長はぷっと吹き出した。

 「なんで小学生みたいにおうちで誕生会しなきゃならないんだよ。違うって。最近、親が早く結婚しろって催促するようになってね。『まだその気はない』って断ってたんだけど、とうとう伯父を通じて、仕事上、断りづらい見合いの話を持ってきたんだよ。で、言っちゃったわけ。付き合ってる人がいるからその話は断る。今週末、その恋人、連れてくからって」
 
 いまだにさっぱり話が見えなくて、きょとんとしているわたしを面白そうな顔で眺めながら、支社長は言った。

 「だから木谷。俺の恋人のフリして、一緒に両親と伯父に会ってくれ」

 こいびと?
 えっ、恋人!

 「はあぁあぁ?」

 上司に対してあるまじきことと重々承知の上で、わたしは思い切り語尾を上げて、驚きを露わにした。

 「で、できません、そんなこと」
 「なんで?」

 「さっき業務でないとおっしゃいましたよね。では率直に申し上げますが、わたしはあくまで支社長の秘書であって、友人でもなんでもありません。それなのにどうして遠路はるばるご実家まで行って、恋人のフリをしなければならないのか、さっぱり理解できません」
 
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