策士な支社長は新米秘書を独占的に可愛がりたい
 興奮してまくし立てるわたしに、支社長は、実にさりげなく一言投げかけた。

 「ああ、週末全部潰したりしたら、彼氏に叱られちゃうのか」

 あまりのさりげなさに、わたしはその言葉を深く吟味することなく、即座に答えていた。
 「いえ、彼氏はいないので、その心配は……」

 あっ。
 言ってから、しまったと思った。

 そうだよ。
 彼氏がいるのに恋人のフリなんて無理です、って言って、断ればよかった。
 そうしたら穏便に済ませられたのに。
 どうして、そのことに先に気づかなかったんだろう。

 そんなわたしの落胆が、彼にはお見通しだったらしい。

 「恋人いるって言っとけばよかった、って思っただろう? 今」

 図星だ。

 「な、なんでわかるんですか。もしかして、支社長は人の心が読める異能者だったりするんですか」

 また支社長はぷっと吹き出す。

 「誕生会といい、異能者といい、真面目な顔して発想がとっぴだな、木谷は。いや、そんな能力は持ち合わせてないよ。でも、木谷の気持ちは手に取るようにわかる。全部、表情や態度に現れるから。まあ、だからこそ、安心できるんだけど」

 「安心?」
 なんでまた、そんなワードがここで登場してくるんだろう。

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