どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「お前……本当に、可愛くないわっ……!」
「まあ、それはごめんなさい。可愛くない私のことなど、どうか捨て置いてください」
「そんな……捨てたりとかするわけないじゃない! アヴィスが可愛くないなんて、誰が言ったのよ!」
「あなたですけど」

 再び、わぁんと叫んで飛びついてこようとした山羊娘を、今度はさっと身体を横にずらして躱しました。
 私に抱き付き損ねたドリーはそのまま顔面から壁に激突します。
 ゴチンッ、とさっき私が後頭部を床に打ちつけた時と同じような音が響き、イタッと悲鳴も上がりました。
 ドリーには痛覚があるようなので普通に痛かったのでしょう。
 そのまま床に蹲ってさめざめと泣き始めました。
 私はそれを一瞥してから、湿っぽい空気を入れ替えるべく窓を開きます。
 そのとたんでした。

「──ふぐっ」

 待ってましたとばかりに何かが飛び込んできて、べちゃっと私の顔に張り付いたのです。
 その勢いに押されて後退り、私は思わずたたらを踏みました。

「ちょっとぉ! 私のアヴィスに何するのよっ!!」

 ドリーが慌てて駆け寄ってきて、それを引き剥がそうとしてくれますが──その直後、さらに思いも寄らないことが起こりました。
 突然、私の足下の床が輝き始め、何やら魔法陣のようなものが現れたかと思ったら──



「「「え……」」」



 三人の女の声が重なります。
 私とドリーと、そして私の顔に張り付いていた何かの声です。
 どこかで聞いた声のような気がしましたが、のんびりと記憶の糸を手繰っている暇はありませんでした。
 何しろ、私達の身体は成す術もなく、足下から這い上がってきた光に呑まれてしまったのですから。




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