どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「ご覧なさい、一目瞭然でしょう。髪も瞳も、魔王様の色そのものではありませんか」
ノエルが掬い上げたのは、私の髪。
それは、あろうことか銀色に──目の前でふんぞり返っているギュスターヴの髪と同じ色になってしまっていたのです。
「……私の髪は黒です」
「そうでしたか。では、瞳の色は?」
「……緑、です」
「黒い髪と緑の瞳のあなたもさぞ愛らしかったでしょうね。しかし、銀色の髪と赤い瞳のあなたもたいへん可愛らしいですよ」
呆然とする私に、ノエルは優しい声でもって慰めのような言葉をかけるのでした。
未練だらけだった私の魂は衝動的に天使の手を振り解き、地界に帰るつもりがそれを通り越して魔界にやってきてしまったのでしょうか。
そうして飛び込んだのは、運がいいのか悪いのか、魔王ことギュスターヴが主要な魔物を集めて酒宴を催していた魔王城の大広間。
いきなり現れた魂を面白がったギュスターヴは、余興くらいのノリで自身の血肉を使って器を拵えたようです。
「とはいえ、さっきも言った通り、魂に生身を与えるなんていうのは神の領分だ」
「せいぜい、魂が入っただけのお人形ができあがるくらいの見積りだったんですけどねぇ」
ギュスターヴとノエルが呑気に言い交わします。
つまり、今こうして生前のように私の心臓が鼓動しているのは、器を作った本人にとっても想定外のことなのです。
「どうしてこうなったのかは、まったくわからん。なんせ、ベロンベロンに酔っ払っていたからな」
「実は私もです。なかなか美味だったものですから、ついつい深酒してしまいましたね。魔王様、あのワイン樽はどこで仕入れたのです?」
「知らん。いつぞや衝動的にポチッて城の地下に転がしていたやつの中から適当に選んできた」
「あなた、さてはまた大量に注文しましたね。まさかとは思いますが、リボ払い設定にはしていないでしょうね?」
呆然とする私を間に挟んだまま、銀と金がよくわからない話題で盛り上がります。
かと思ったら正面から伸びてきた前者の手が、いまだ後者に頭をなでなでされていた私の腕を掴んで引き寄せました。
その拍子に顔を押し付ける形になった胸は固く、当たり前のように背中に回った腕は逞しい。
ギュスターヴは、これまでずっと側にいたエミールとは何もかもが違いすぎて、私はとたんにひどく落ち着かない気分になりました。
けれども、私の様子など少しも気に留めないまま、頭上での会話は続きます。