どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜

31話 プンスコお父さん

 まだ午後三時を回ったばかりのはずなのに、辺りは黄昏時のように薄暗くなっていました。
 さっきまでさんさんと差し込んでいた太陽の光は、突如現れた魔界の闇に呑まれてしまったように鳴りを潜めています。
 グチャグチャと生々しい音を立て、傭兵達の成れの果てはまだ物陰で前大臣を貪っていました。
 そんな暗然たる世界の中でただ一人、辺りを照らしているのはギュスターヴ。
 その上質のシルクのごとく銀髪の一本一本が発光し、魔王のくせに相変わらずやたらと神々しい様子です。
 彼は私を片腕で抱き上げると、触れれば切れんばかりの鋭い目でぐるりと辺りを見回して、再度同じ問いを口にしました。

「誰が、私の子をぶった」

 しかし、ドリーもジゼルも義姉も、魔王の怒りに呑まれて固まってしまい、答えることも叶いません。
 グライスとパルスだけは、物陰に隠れたまま興味津々な様子で彼を見つめていました。
 そんな中で私はといいますと、九割がギュスターヴの血肉でできているせいでしょうか。
 あるいは、万が一にも彼が自分に害を及ぼすことなどないと本能的に確信しているからかもしれません。
 魔王が怒り狂っていようと、別段恐ろしいとは感じませんでした。

「ギュスターヴ、どうしてそんなに怒っているのです?」
「我が子を殴られて怒らない親がいるならば、まずはそいつから叩きのめしてやろう」

 深々と刻まれた眉間の皺は、とんでもなく綺麗な顔には不釣り合いな気がしたものですから、指の腹で擦って伸ばしてあげます。
 ギュスターヴはそれに少しだけ毒気を抜かれたようでしたが、私の顔を見るとまたすぐに眉を寄せてしまいました。
 理由は、庭に面した廊下の窓に目を向けたことで判明します。
 窓の向こうも闇に沈み、ガラスが鏡みたいになっていたのですが、そこに映った私の顔がそれはもうひどい有様だったのです。
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