どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「ならば、私はこの憤りをどこにぶつければいい? ──ここにいる、お前以外のものを全て消してしまおうか」
唸るようにそう呟いた魔王の怒気に当てられて、燃え上がります。
彼らだけではありません。
床に残っていた前大臣の残骸も血糊も、私を殴った男のミンチも、その他もろもろ汚らわしいもの達は全て、一瞬にして炎をに呑まれてしまったのです。
ひっ、と義姉が小さく悲鳴を上げたのが聞こえました。
対してグライスとパルスは、燃え上がる成れの果て達の断末魔に怯える様子もありません。
やがて、思いがけずすっきりさっぱり一掃された廊下には、もう何度目かも分からない沈黙が落ちました。
まあ、そんなものは私が平然と破るのですけれど。
「ギュスターヴは怒りんぼうさんですね。済んだことなのですから、もういいではありませんか」
「いいわけがあるものか。我が子が殴られ、いまだこうして痛々しく頬を腫らしているんだぞ。お前が許そうとも、私が許さん」
ギュスターヴはそう言って、いまだプンスコしております。
プンスコ、とか全力で可愛い表現にしてみましたが、そのお綺麗な顔はここにきてもまだ凄まじい形相を呈しておりました。
確かに、私の頬は依然痛々しい有様なのですから、それを目の前にして自称〝アヴィスのお父さん〟がプンスコするのも仕方のないことなのかもしれません。
うんうんと頷いた私は、それならば、続けます。
「この頬を治せば怒りも収まるのではありませんか? ギュスターヴなら簡単でしょう?」
ギュスターヴの精気はくどくて、まったくもって好みの味ではありませんが、私にとっては万能薬で特効薬なのです。
ジゼルから逃れようとしてすっ転んで両膝がわんぱく少年みたいになった時も、クモ之介さんの爪で左腕をサクッと突き刺した時も、ギュスターヴに精気を飲まされれば立ち所に治ってしまったのですから。
ところが、ん、唇を突き出して精気を要求しますと、ギュスターヴはとたんに赤い瞳をぱちくりさせました。
「どうして、びっくりするんです?」
「いや……よくよく考えたら、アヴィスからキスを強請られたのは、これが初めてではないか?」
「キスを強請っているつもりなんて微塵もありませんけど」
「うむ、待ちなさい……お父さんはいささか緊張してきた」