どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
 なんでやねん、と私の全細胞が口を揃えて突っ込みました。
 ギュスターヴの足の下からはジゼルが呆れた顔をして見上げきます。
 ドリーは血塗れの両手で口元を押さえて、はわわと顔を赤らめました。なんでやねん。
 義姉は完全について来れていない様子ですが、グライスとパルスが凝視してくるものですから、私までそわそわとした心地になってしまいます。
 キスを強請っているつもりなんて微塵もないのです。
 けれど、貞節を重んじるグリュン王国に生まれ育ち、許嫁であるエミールとも手を繋いだことしかなかったのを考えれば、人の目も気にせず唇を突き出すなんてとんでもなくはしたない真似だったのかもしれません。
 とはいえ……

「私はもう、グリュン王国のアヴィスではなく、魔界のアヴィスですもの。どうってことないです」

 開き直るって、悪いことではないですよね。
 エミールの許嫁、未来のグリュン王妃という、生まれながらに嵌められていた型から抜け出した今は、もう怖いものなんてありません。
 私はギュスターヴのクラバットを掴んで引っ張り、彼の形のよい唇に齧り付きます。
 とたん、きゃああっと黄色い悲鳴が上がりました。

「ア、アヴィスったら大胆んんん!! えっ? えっ!? 魔王様って受けなの!? アヴィス限定で!? ──やだっ、推せる!!」

 ドリーはとにかくうるさいです。
 あと、やっぱりギュスターヴの精気はくどいです。
 どっと流し込まれるそれに、うんざりとしておりますと、ふいに目の端に義姉が映りました。
 とたん、さっき知ってしまった彼女の本心を思い出して、痛覚はないはずなのに胸の奥がチクリと痛んだ気がしましたが……


「お前に掻き乱される日々は、実に面白いものだな」


 触れ合う唇の隙間で、笑いを含んだギュスターヴの声がそう呟きます。
 私の身体の傷も、心の傷も、何もかも──魔王は簡単に癒してしまいました。
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