どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「念のために申し上げますが、私はギュスターヴの言いつけを破って地界に遊びにいったわけではありませんよ? 強制的に召喚されたのですから不可抗力ですし」
「別に、城を出たからといってお前を責める気はないぞ。どこへ行こうと、私が迎えに行けばいいだけのことだからな。しかし……召喚、だと?」

 訝しい顔をする相手に、甥と姪に魔法陣を用いて召喚されたこと、その際に前回遺してきた宝石が媒介に使われたことを説明しました。
 とたん、ギュスターヴはノエルと顔を見合わせます。

「あの時、アヴィスの髪飾りにさせた赤い宝石は、私の血から生成したものだ」
「なるほど。それを媒介にすれば、九割が魔王様の血肉で構成されているアヴィスを召喚できたとしても不思議ではありませんね」
「……血を固めたものを頭に飾られていたという事実にドン引きなんですけど」
「しかし、召喚用の魔法陣、か……」
「ただの人間の子供が、そんなものをどうやって手に入れたのでしょうね?」
「もしもし? 聞こえないふりしないでください。今後は赤いものをいただいても絶対に付けませんからね?」

 口を挟む私の頭をあやすみたいによしよしと撫でると、魔王と元天使はまた額を突き合わせて話し込み始めました。
 それにムッとして再び声を上げようとするものの、ギュスターヴの手が私の顔をマントの襟元に埋めさせてしまいます。
 悔しいことに、フカフカで温かく、やたらといい香りがして抗い難いのです。
 仕方なく、私が大人しく口も目も閉じてフカフカを堪能しておりますと……

「ふわ……」

 ふいに一つ、欠伸が出ました。

「……アヴィス?」

 耳元で、ギュスターヴの潜めた声が聞こえます。
 私が返事をせずにおりますと、彼はゆったりと私の頭を撫でながら続けました。

「……眠ったのか?」

 いいえ、眠ってなどおりません
 ちゃんと起きておりますよ。
 そう答えたかったのですけれど──この時、私はギュスターヴの問いに答えるのも、目を開けるのも、どういうわけか億劫で仕方がなかったのです。
 



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