どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜



「三十日間無料体験終了まで残り十分にもかかわらず解約ができません」
「……なんて?」



 アヴィスが地界で毒入りワインを煽って絶命後、この魔界において新しい体で第二の人生を開始して、一月と少し。
 初日に与えられた携帯端末は、すっかり使いこなせるようになった。
 ただし、好奇心の赴くままにアプリをダウンロードしまくって、度々容量不足に陥ってはいるが。

「お前は……また勝手に妙なものを登録をしたのか。お父さんに相談してからにしなさいと言っただろう」
「別に、妙なものではございません。それに、ギュスターヴは私のお父さんではありませんもの」

 ツンと澄まして答えるアヴィスにやれやれとため息をつきつつも、やはりギュスターヴが腹を立てる様子はない。
 というのも、この自称〝アヴィスのお父さん〟。なんだかんだ言いつつも自分を頼ってくる彼女が可愛くて仕方がないのだ。
 アヴィスはそんなギュスターヴの上に寝そべると、彼の両頬を手のひらで挟んで鼻先を突き合わせた。

「無料体験が今日までだということは、ちゃんと覚えていたんですよ。えらくないですか?」
「そうだな、えらいな。ノエルなど、毎回解約を忘れて一月分払わされているからな」
「そんな無様を晒したくないので、さっさと解約してください」
「そのセリフ、あとで本人にも言ってやれ」

 ギュスターヴはくくと喉の奥で笑うと、ようやくベッドから起き上がった。
 アヴィスを膝の上に抱え、背中から覆い被さるようにして端末を操作し始める。
 アヴィスも、大人しく彼の顎の下に収まった。

「しかし、解約などさほど難しいことではないだろう。こう、マイページから〝解約する〟を選んでだな……」
「すると、〝本当に解約しますか〟と出てきますでしょう? これが、この後二十回繰り返されます」
「……二十回。それはさすがに鬱陶しいな?」
「はい、鬱陶しいです。ですが、問題はその後なんです」

 アヴィスの言う通り、二十回にも及ぶ解約引き止め画面を乗り越え、ようやく二十一回目の〝解約する〟ボタンをタップしたとたんである。
 パッ、と画面いっぱいに表示された画像に、端末を操作していたギュスターヴの指が一瞬固まった。
 彼の腕の中にいたアヴィスの体も強張る。
 というのも、この時画面に現れたのは一匹の猫──うるうるおめめの可愛い可愛い猫ちゃんが、じっと何かを訴えかけるようにこちらを見つめている画像だったからだ。
 さらには、こんな一文が添えられている。
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