どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜

「──と、とにかく! 私の大腿骨を返しなさいっ!!」

 せっかくの和やかな空気をぶち壊すみたいに、プルートーが口を挟んできました。
 まったく、カタカタとうるさいったらありません。
 あの顎を砕いて黙らせてやりましょうか。彼自身の大腿骨でもって。
 エミールも嫌な顔をして言います。

「アヴィス、あいつはさっきから何をガタガタ喚いているの?」
「骨を返してほしいんですって。ほら、この大腿骨。あの負け犬のです。以前あいつを倒して奪ってやったんです」
「なるほどね。それであいつは、あんなゴリゴリに毛深いやつを代わりに嵌めているわけか。気持ち悪いね」
「ええ、心底気持ち悪いです」

 私とエミールが声も潜めずにそう言い交わしておりますと、プルートーは上座にいるギュスターヴに泣きつきました。

「ちょっとぉ、保護者ぁ!! 黙って見てないで、注意しなさいよっ!! お宅の子達、すっっっごく感じ悪いんですけど!?」
「子供の言うことにいちいち腹を立てるな。大人げないぞ。それに、毛深いのも気持ちが悪いのも事実だろう」
「そもそも、お嬢さんに骨を奪われたせいなんですけど!? 毛深いのを代わりを寄越したのは、あんたなんですけどね!? といいますか、切実に骨、返してほしいんですけどっ!?」
「こんなに気に入っているものを、アヴィスから取り上げろと? そんなかわいそうなこと、できるわけがなかろう」

 魔王にすげなく一蹴された門番は、円卓に突っ伏してわぁんっと泣き出しました。
 何でもいいですけれど、あの涙っていったいどこで生成されているのでしょう。
 骨なのに。
 私はエミールと一緒に、泣き伏す骸骨の後頭部を冷ややかに眺めておりました。

「少年」

 そんな中、ギュスターヴが私ではなくエミールに向かって口を開きます。
 エミールも、ツンと澄ました顔をして彼を見返しました。

「なに?」
「魔界に滞在するのは一向に構わないが、前回のようにアヴィスを泣かせたら──分かっているな?」

 とたん、エミールはまた苦虫を噛み潰したような顔になり……

「……泣かせないよ」

 ぽつりとそう呟きました。
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