どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「あなたは、どうしてこうなってしまったんでしょうね?」
なにしろ、相手は魔物というよりも死人──しかも、私のように魂だけの状態ではなく、屍ごと魔界に来てしまった者のようです。
衣服から覗く肌は青白いを通り越して、もはや青灰色。
体格から見て男性で、腰に二振り剣を下げているからには生前は剣士だったのでしょうか。右腕が肘の先から無くなっているところを見ると、戦いの最中に亡くなったのかもしません。
彼がどういう理由で魔界に落ちてしまったのかは分かりませんが、身なりの良さからそれなりの身分であったことが窺えます。
ちなみに、マントと一体になったフードを深く被っているのですが、あいにくその下の顔は判別できないくらいにえらいこっちゃな有様だったので、私は安易にフードを捲ってしまったことを後悔しました。
あれでは、言葉を話せないのも当然でしょう。
そんな彼とは、魔王城の庭で古木の講釈を聞いている時に出会いました。
私を見つけるなり、たたたーっと走り寄ってきたかと思ったら、どういうわけかずっと後を付いてくるのです。
それはもう、雛鳥のごとくピヨピヨと。以後、彼のことはヒヨコと呼ぶことにします。
ちなみに、私の拳を元通りにしたギュスターヴはどっと疲れた顔をして、一つ二つ言い付けてから私をメイドに預けました。
酔いが覚めたから宴はお開きにして寝る、とか何とか言っていましたが、今どうしているのかは知りません。
そもそも私には、他にもっと気にかけなければいけない相手がいるのですから。
「エミール……」
私を毒殺したという冤罪で、グリュン城の外れの塔に幽閉されることになったエミール。
彼は今、どうしているのでしょうか。
「エミールを助けにいかないと……」
私がそう言って立ち上がると、隣にいたヒヨコも当たり前のようにそれに倣いました。