どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「あの子はまだ生後一月余りの赤子なのだから、乳でも吸わせてみたらどうだい。お前さんの」
「貴様はバカか。冗談でもアレの前でそんなこと口にしてみろ。ゴミを見る目を向けられるぞ」

 それこそゴミを見る目をしてくる相手、彼女はにこにことしたまま続ける。

「それにしても、だ。こんなにおもしろいことになるのなら、あの酒宴を欠席するのではなかったよ」
「えー、でも、ウルスラもあの時、卵を温めていたんでしょう? だったら、しょうがないわよ」

 ウスルラ、と魔女を甲高い声で呼んだのは、その左隣に座っていた鳥のような姿をした女の魔物、ハーピーのビアンカだ。
 彼女もちょうど卵を抱いていて件の酒宴を欠席したため、アヴィスと顔を合わせるのはこの日が初めてだった。
 席順を見れば分かる通り、魔王の隣に陣取る魔女ウルスラは実質魔界のナンバーツー。
 ビアンカは魔鳥族の長であり、ウルスラとは幼馴染。二人とも、魔王と同じほど長く生きている。
 一月余り前にビアンカが抱いていたのは同じ魔鳥族との間に生まれた卵だが、ウルスラの方は少々複雑な生まれの卵だった。
 それを知っているオランジュとジゼルも口を挟む。

「まったくぅ、ウルスラはぁ。夢魔以上に奔放なんだからぁ」
「ふしだらなあなたに、そこのお姫様が何か言いたいことがありそうですわよ?」

 彼女たちがニヤニヤして目配せした先では、刺し殺しそうな目でウルスラを見据えている者がいた。
 本日、定例会議に集まった魔物の中で一際年若いドラゴン族の娘だ。
 千年を生きる魔女は、そんな彼女に余裕の笑みを向けて言った。

「なんだい、ドラゴン族の姫。クラーラとかいったかな? 言いたいことがあるのなら、言ってごらん」
「黙れ、この阿婆擦れ。気安く私の名を呼ばないでちょうだい」

 彼女達の声色の凄まじい温度差に、下座で門番のプルートーが震え上がる。
 何しろ、ウスルラの卵の父親はドラゴン族の長──ここにいるクラーラ姫の父親だったのだ。
 彼女の母親は生粋のドラゴンであり、つまりウルスラが産んだのは不義の子である。
 父親の不倫相手を前にしているのだから、クラーラの眼差しが鋭くなるのも当然だろう。
 彼女は、バンと大きな音を立てて円卓を叩くと、上座に向かって訴えかけた。
< 165 / 249 >

この作品をシェア

pagetop