どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「あの子なら、産めると思うけれどね」
「……あの子?」
「さっきまでここにいた可愛い子──アヴィスとかいう名前だったか? あの子なら、魔王の子を産めるよ」
「──バカか」

 とたん、ギュスターヴは魔女を鋭く睨んで吐き捨てた。

「あれは、私の血肉でできている、私の子だぞ。そんな目で見られるものか」
「一割は他のものの血肉が入っているんだろう? いけるいける」
「黙れ。それ以上戯言を抜かすな。首を落とすぞ」
「首を落とされたって、私はしゃべれるんだけどね」

 話にならないとばかりにウルスラから顔を背けたギュスターヴだったが、反対隣に座っていたノエルが薄ら笑いを浮かべているのを見て、ますます眉を寄せる。

「貴様も、何か言いたげだな?」
「……いいえ、別に。ウルスラの話で、ちょっといろいろ想像してしまっただけで」

 この生臭天使が何を想像したのか、聞きたくもないギュスターヴはまたもや視線を逸らす。
 下座では、骸骨門番プルートーがこの場の空気に耐えかねたように小さくなって震えていた。
 極度のストレスで骨粗鬆症にならなければいいが。
 そんなことを考えていたギュスターヴの横顔に、ウルスラはいやに優しげな眼差しを向ける。

「まあ、いいさ。気が変わったら言いなさいよ。私が、産婆をやってあげるからね」

 ギュスターヴは、もはやそれに何の反応も返すことはなかった。
 一瞬、会議室の中がしんと静まり返る。
 しかし、ふいに上がったねちっこい声がその空気をぶち破った。
 夢魔オランジュの声だ。

「そういえばぁ、ウルスラぁ。生まれたばかりの末っ子ちゃんってぇ、今どうしてるのぉ? おうちでお留守番なのぉ?」
「いいや、魔王城に連れてきているよ。たぶん、庭で遊んでいると思うけど」

 それを聞いたドラゴン族の姫が、魔女を睨んでいた目を窓の外へと移した。
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