どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「……ちっ」
小さく、彼が舌打ちをしました。
生前は見たこともなかった粗野な態度に、私はやはり少し戸惑いを覚えてしまいます。
前回、頭からインクをかけられたり目玉を抉られそうになったことだって、まだ根に持っているのです。
けれども、私がエミールを嫌いになることなどきっと未来永劫ありえないでしょう。
私達は幼馴染で許嫁で、兄妹のような、とても親密な間柄でしたから。
この時、彼とキスができなかったことは、別段残念とは思いませんでした。
けれども、せっかくこうして側にいるのに手も繋げないことは、少し寂しく感じたのです。
「ともあれ、エミールが今すぐ死んでしまうようなことはないと元天使が太鼓判を押してくれてほっとしました。せっかく魔界に来たのです。馴染みの場所を案内しますね」
「なんだかさあ……アヴィス、生きている時よりも生き生きしてない?」
ほっとしたと言えば、オンラインフィットネスもどうにかこうにか解約手続きが間に合いました。
すったもんだありましたが、最後の最後で手を貸してくれた、あの初対面のケンタウロスさんに感謝せねばなりませんね。
しかしさすがに、今後無料体験を登録する際は必ず相談するよう、ギュスターヴに念押しされてしまいました。
頑なに頷かない私に、ドリーがプリプリと怒っておりましたが知ったことではありません。
できない約束はしない主義なのです。
ドリーは口喧しいし、下座にいた門番も大腿骨を返せ返せとうるさかったものですから、エミールと一緒にさっさと逃げ出してきました。
オンラインフィットネスで鍛えたこの俊足、伊達ではありませんよ。
私はまず、エミールを連れて魔王城の庭にやってきました。
老婆の声で話す古木の魔物を彼に紹介しよう思ったのです。
ところが……
「おばあさま……おばあさま? ねえ、私の声が聞こえていらっしゃらないの?」
今日は、なぜか何度話しかけてもうんともすんとも答えていただけません。
私が首を傾げておりますと、エミールはふよふよと古木に近づいていき、訝しい顔しました。
「そもそも、これは本当に魔物なの?」
「あっ、いけませんよ、エミール。古木とてレディですから、そんな風に不躾に背後に回っては」
「いやでも、後ろに扉が……」
「エミール! いけませんったら! めっ、ですよ!」
私に叱られたエミールは、何だかちょっと嬉しそうな顔をしていそいそと戻ってきました。
いやですね。変な性癖に目覚めないでもらいたいものです。
それはそうと、近くで門を守るガーゴイルの視線がいつにも増してうるさいですね。
ギュスターヴ曰く極度の恥ずかしがり屋さんらしい彼は、いまだ私と目を合わせてくれたこともないというのに。
それはそれで構わないのですが、しかし言いたいことがあるのならばはっきり言ってもらいたいものです。
私は沈黙する古木のおばあさまに向けていたつま先を、挙動不審なガーゴイルへと移しました。
小さく、彼が舌打ちをしました。
生前は見たこともなかった粗野な態度に、私はやはり少し戸惑いを覚えてしまいます。
前回、頭からインクをかけられたり目玉を抉られそうになったことだって、まだ根に持っているのです。
けれども、私がエミールを嫌いになることなどきっと未来永劫ありえないでしょう。
私達は幼馴染で許嫁で、兄妹のような、とても親密な間柄でしたから。
この時、彼とキスができなかったことは、別段残念とは思いませんでした。
けれども、せっかくこうして側にいるのに手も繋げないことは、少し寂しく感じたのです。
「ともあれ、エミールが今すぐ死んでしまうようなことはないと元天使が太鼓判を押してくれてほっとしました。せっかく魔界に来たのです。馴染みの場所を案内しますね」
「なんだかさあ……アヴィス、生きている時よりも生き生きしてない?」
ほっとしたと言えば、オンラインフィットネスもどうにかこうにか解約手続きが間に合いました。
すったもんだありましたが、最後の最後で手を貸してくれた、あの初対面のケンタウロスさんに感謝せねばなりませんね。
しかしさすがに、今後無料体験を登録する際は必ず相談するよう、ギュスターヴに念押しされてしまいました。
頑なに頷かない私に、ドリーがプリプリと怒っておりましたが知ったことではありません。
できない約束はしない主義なのです。
ドリーは口喧しいし、下座にいた門番も大腿骨を返せ返せとうるさかったものですから、エミールと一緒にさっさと逃げ出してきました。
オンラインフィットネスで鍛えたこの俊足、伊達ではありませんよ。
私はまず、エミールを連れて魔王城の庭にやってきました。
老婆の声で話す古木の魔物を彼に紹介しよう思ったのです。
ところが……
「おばあさま……おばあさま? ねえ、私の声が聞こえていらっしゃらないの?」
今日は、なぜか何度話しかけてもうんともすんとも答えていただけません。
私が首を傾げておりますと、エミールはふよふよと古木に近づいていき、訝しい顔しました。
「そもそも、これは本当に魔物なの?」
「あっ、いけませんよ、エミール。古木とてレディですから、そんな風に不躾に背後に回っては」
「いやでも、後ろに扉が……」
「エミール! いけませんったら! めっ、ですよ!」
私に叱られたエミールは、何だかちょっと嬉しそうな顔をしていそいそと戻ってきました。
いやですね。変な性癖に目覚めないでもらいたいものです。
それはそうと、近くで門を守るガーゴイルの視線がいつにも増してうるさいですね。
ギュスターヴ曰く極度の恥ずかしがり屋さんらしい彼は、いまだ私と目を合わせてくれたこともないというのに。
それはそれで構わないのですが、しかし言いたいことがあるのならばはっきり言ってもらいたいものです。
私は沈黙する古木のおばあさまに向けていたつま先を、挙動不審なガーゴイルへと移しました。