どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「ごきげんよう。何か、私の顔に付いておりますでしょうか?」
「……」

 顔に笑みを貼り付けて尋ねますと、彼はまた無言のまま金色の目をうろうろとさせ始めました。
 そういえば、さっき会議室で会った魔女と同じ目の色ですね。
 そんなことを考えていた時でした。
 突然ドカドカと凄まじい足音を立て、何やら見慣れない連中が目の前を通り過ぎていったのです。
 数にして三匹。揃って、立派な図体をしていました。
 全身が鱗に覆われ、頭からは二本の角が生えております。長い尻尾と、ジゼルのそれと似た翼もありました。
 そんな彼らが巻き上げた土埃に、私とエミールは思わず顔を顰めます。

「何だ、あれ。アヴィスの知り合い?」
「まさか。あんな粗野な知り合いはおりません」
「……ドラゴン族」

 私達の会話に、ふいに聞き慣れない声が混ざります。
 驚きました。ガーゴイルの声です。
 出会って一月余り経ちますが、実は初めて聞きました。

「しゃべったわ」
「じゃべったね」
「……」

 私とエミールがまじまじと見つめますと、彼はしまったとでもいうように、両手で口を押さえます。何だか、ちょっとだけ可愛く見えてきましたよ。
 
「会議室にドラゴンのような女の子がおりましたが、今のは彼女の関係者ですか?」

 私がそう問いますと、ガーゴイルは両手で口を塞いだままコクコクと頷きます。

「小さな子が追いかけられているように見えましたが、あれもドラゴンですか?」

 重ねた問いに、ガーゴイルはまた頷きかけて……

「よくわからない、です」

 蚊の鳴くような声で答えました。
 ともあれ、私が口にしました通り、三匹のドラゴンは何やら小さな子を追いかけていたのです。
 そうしてついに、その子が庭の隅に追い詰められているのが見えたものですから、私の俊足が発動してしまいました。

「──ちょっと、アヴィス? 迂闊に首を突っ込まない方が……っ!」
 
 エミールの慌てた声が追いかけてきますが、走り出した私を止められるものはおりません。
 近付いてみると分かりました。ドラゴン達に追い詰められていたのは、三つか四つくらいの幼子です。男の子か女の子かは、この時点では判然としませんでした。
 しかし、真っ黒い髪、真っ黒い服、真っ黒いとんがり帽子……どこかで見た姿です。
 ええ、そう──会議室で会った魔女のそれとお揃いではありませんか。
 違うのは、幼子の背に翼が──ドラゴン達のものとよく似た、皮膜を張った翼が生えていることくらいです。
 そういえば、会議室で見たドラゴン娘が似たような感じでした。ただし、彼女にはトカゲみたいな尻尾もありましたが。
 幼子は、三匹のドラゴンに囲まれてすでに泣きべそをかいておりました。
 そのうるうるの瞳に、解約画面に出てきた明日から餌を半分に減らされる猫ちゃんや、散歩を禁止されてしまうワンちゃんの姿が重なります。
 居ても立っても居られなくなった私は、すうと大きく息を吸い込み……
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