どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜


「ごきげんようっ!」


 幼子を取り囲んでいたドラゴン達の背中に声をかけました。
 とたん、彼らが弾かれたようにこちらを振り返ります。

「「「え、ご、ごきげんよう……?」」」

 私は、彼らに謝らねばなりません。
 安易に粗野だと決めつけてしまいましたが、ドラゴン達は戸惑いつつもちゃんと挨拶を返してくれたのですから。
 私はワンピースを摘んで小さく腰を落としてから、戸惑う彼らの前に回ります。
 そうして、うるうるおめめの幼子を抱き上げました。

「……っ」

 小さな身体がビクリと過剰なほど震えましたが、私はこの時、それをさほど気にかけませんでした。
 ドラゴン達は状況を理解できない様子で、え? え? と顔を見合わせています。
 そんな連中に、私はとびきりの笑みを向けて言い放ちました。

「それでは、みなさま。ごきげんよう」
「「「あっ、はい……ごきげんよう」」」

 ごきげんよう、というのは実に便利な言葉です。
 出会いの挨拶にも別れの挨拶にも使えるんですもの。
 そんなことを考えながら、私は幼子を抱っこしたまま堂々とドラゴン達の間を通り抜けます。
 そうして、トコトコと元いた古木の方へ歩き出したのですが……


「「「いや! ま、待てっ! 待て待て待てえぃ!!」」」


 口を揃えてそう叫んだドラゴン達が、大慌てて追いかけてきました。
< 171 / 249 >

この作品をシェア

pagetop