どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「痛覚がないというのも考えものだな。骨が剥き出した血塗れの拳をしげしげと眺めて、あらー、なんて暢気に驚いているのを見せられると……うむ、さすがに心配になってくる」
「一回死んだせいなのか元々なのかは分かりませんが、変に肝が据わった子ですものね。痛みは抑止力になりますから、無茶をさせないためには必要かもしれません。今からでもあの子の体に痛覚を付け加えてやってはいかがですか? 魔王様なら可能でしょう?」
「わざわざ痛い思いをさせるのか? かわいそうだろうが。貴様は、鬼か、悪魔か」
「いえ、天使ですけど」

 ノエルはもともと、天界で神に仕える天使だった。
 それがなぜ、魔王の右腕などしているのかについては、今は割愛するとして……

「そういえば、あの子の魂を返せ、と元同僚の天使からメールが来ていましたが」
「ほう? 魔界に落ちた魂を天使が? わざわざ? 初めてのケースだな」
「ですよね。よほどあの子を天界に連れていきたかったのでしょうか。いかがなさいます?」
「愚問だな、ノエル。あれはもう私の子だ。天使にも、ましてや神になんぞくれてやるはずがない」

 ギュスターヴは鼻で笑ってそう言うと、ベッドの脇に置いてあった端末を手に取った。
 手慣れた様子でそれを操作して、ノエルに画面を見せる。

「アヴィスには携帯端末を持たせている。今どこにいるのかはこの通り、一目で分かるからな。五時になったら迎えに行くと言っておいたが……さて、私の話をまともに聞いていたのかどうか」
「門限五時なんです? しかし、威信をかけて衛星を飛ばした天界も、まさか魔王様にそれを利用されているとは思わないでしょうねぇ」
「神だって、魔界が開発した会員制交流場を使ってるんだ。お互い様だろう。知っているか、あいつ結構なツイ廃だぞ?」
「知りたくなかったです」

 地界よりも科学技術が飛躍的に進んだ魔界や天界では、情報通信網も発展している。
 天界では画像投稿に特化した会員制交流場が主流で、意識高い系の死人が日々キラキラしい写真を上げている一方、呟きに特化した会員制交流場の人気が根強い魔界ではクソリプ合戦が盛んで、日々どこかで誰かが炎上していた。
 なぜ魔界や天界がこのような発展を遂げているのかというと、地界で大成しないまま寿命を迎えた天才、奇才、変人が、ほぼ無限に存在し続けられる死後の世界で情熱を燃やし続けた結果である。
 そして、魔王も神もだいたいは退屈を極めているので、そういう輩への援助を惜しまない。
 魔界は基本ろくでもないやつがくるため、ろくでもない方向に発展することが多いが、それもまた一興。
 ともあれ、天界の技術革新のおこぼれを拝借し、魔王とその側近はアヴィスの現在地を割り出した。
 ギュスターヴは彼女を示すアイコンを指先で突いて、その肩書きとは不釣り合いなほど柔らかな笑みを浮かべる。
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