どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「ギュスターヴ、六秒ルールってご存知ですか?」
私がギュスターヴの顔を両手で挟み込み、強引に自分の方に向けたのも。
彼の首からゴキャッ、とたいそう痛そうな音がしましたが、知ったことではありません。
「アヴィス……お父さんはな、今大事な話をしているのだが」
「ギュスターヴはお父さんではありませんし、私も大事な話をしています」
固唾を呑んで見守っていた魔物達が、今度は揃いも揃って間抜け顔を晒していますが、これも知ったことではありませんので構わず続けますよ。
私はギュスターヴの両の頬をペチペチしながら言いました。
「もう一度お尋ねしますけれど、六秒ルールをご存知ありません?」
「……三秒ルール、ではなく?」
「食べ物を落としても三秒以内なら支障なし、というのとは別物ですよ。ご存知ないのでしたら、説明します」
「……うむ、聞こう」
怒りの感情というのはだいたい六秒で頂点に達し、それを過ぎれば沈静化していくと言われています。
つまり、その六秒間さえやりすごせば、無闇矢鱈と怒り散らしたり暴力を振るったりして人間関係を壊してしまわずに済むのです。
その他、深呼吸をして心を落ち着かせたり、まったく別のことに意識を移したり、あるいは怒りの対象自体から距離を取るなども効果的だそうです。
「──と、アンガーマネジメント講座で習いました」
「……ん? 待て待て。ヨガとフィットネス以外も登録していたのか? ちゃんと自分で解約したんだろうな?」
「安心してください。こちらは三ヶ月無料キャンペーン中でしたので、まだまだ猶予があります」
「いやそれ、絶対に忘れるやつだぞ。賭けてもいい」
なお、アンガーマネジメント講座に興味を持ったのは、先日私がぶたれて頬を腫らしたことにギュスターヴが盛大にキレ散らかしたのがきっかけです。
実際、そのギュスターヴがドラゴン娘から意識を逸らしてすでに六秒が経ち、彼の瞳の奥で燃え盛っていた怒りもすっかり鎮火しております。
それを確認した私が、講座で言っていた通りだったと満足しておりますと──